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最高裁判所第三小法廷 昭和46年(オ)1109号 判決 1973年1月30日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人栄木忠常、同豊田泰介、同森勇、同赤木巍の上告理由第一点について。

原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)の確定したところによれば、訴外黒沢儀一郎と亡小倉正吾、亡小倉安子夫婦(以下、小倉夫婦という。)とは、かねてから親交があつて、相互に自動車の貸し借り、融通をしていた関係にあつたこと、本件事故当日、黒沢はその所有の本件事故車を小倉夫婦に貸与したが、その目的は休日のドライブという一時的なもので、黒沢の都合次第でいつでも返還を求めうる状況にあつたこと、そして、小倉夫婦は、その子亡小倉由美子(当時六才)および被上告人加藤明子(旧姓小倉、当時四才)を同乗させ、被用者の訴外内藤三男に運転させて家族全員でドライブに出かけたところ、内藤の過失により本件事故が発生したものであること、以上の事実が認められるというのである。右事実関係によれば、黒沢は、本件事故車を小倉夫婦に貸し渡していても、なお、その運行に対する支配を失わず、かつ、その運行による利益を享受していたものと認めるべきであつて、黒沢が、本件事故により他人の被つた損害につき、自動車損害賠償保障法三条所定の自己のために自動車を運行の用に供する者(以下、運行供用者という。)として、その責任を負うべき旨ならびに事故車の同乗者にすぎない由美子および明子が黒沢に対する関係において同条にいう他人にあたる旨の原判決の判断は、正当として是認することができる。事故車の借主である小倉夫婦も運行供用者にあたるものと解されること、由美子および明子が小倉夫婦の親権に服する子であることなど所論の事情は、右の判断を左右するに足りないものというべきである。原判決の認定・判断に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

同第二点について

黒沢が自動車損害賠償保障法三条所定の運行供用者にあたり、由美子および明子が同条にいう他人にあたるものと解すべきことは、右に説示したとおりであり、被上告人らの本訴請求は、黒沢が同条に基づく損害賠償責任を負担したことを前提として、同法一六条一項に基づき、保険会社である上告人に対し、右損害賠償額の支払を求めるものである。このような被害者の直接請求権の行使に対しては、所論のような黒沢と小倉夫婦および被上告人らとの関係をもつて上告人の免責の事由となしうるものとは解されないばかりでなく、上告人の責任を認めることによつて、ただちに明子が黒沢に対し所論の求償債務ないし損害賠償債務を負うに至るものとは解されず、原審も、小倉夫婦または明子が右債務を負担したという事実を確定していないのである。したがつて、上告人の被上告人らに対する支払義務を認めた原審の判断に所論の違法はなく、論旨は、その前提を欠くものであつて、採用することができない。

同第三点について。

原判示のように、本件事故車の運行につき、黒沢とともに、小倉夫婦もまた運行供用者の地位にあるとしても、両者の運行供用者としての責任は、各自の立場において別個に生じ、ただ同一損害の填補を目的とする限度において関連するにすぎないのであつて、いわゆる不真正連帯の関係に立つものと解される。そして、不真正連帯債務の債務者相互間には右の限度以上の関連性はないのであるから、債権を満足させる事由以外には、債務者の一人について生じた事項は他の債務者に効力を及ぼさないものというべきであつて、不真正連帯債務には連帯債務に関する民法四三八条の規定の適用はないものと解するのが相当である。したがつて、小倉夫婦と明子との間に混同を生じ、小倉夫婦の債務が消滅したとしても、黒沢の債務にはなんら影響を及ぼさないものと解すべきであつて、黒沢の責任を前提として上告人の支払義務を認めた原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 天野武一 裁判官 田中二郎 裁判官 関根小郷 裁判官 坂本吉勝)

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